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そうありたいな…というブログ名にしてみた

2005.08.19(全国高等専門学校英語教育学会第29回研究大会の備忘録)

京大会館で行われた全国高等専門学校英語教育学会第29回研究大会に参加しました。高専に籍を置いて3年目ですが、初めての参加となりました。以下では、特に印象に残った講演や発表について記したいと思います。
(特別講演)
特別講演として、柳瀬先生(広島大)による「私たちは『考えて』いるか」という題目での講演がありました。「考えること」というのは、「他の人の立場に立って物を考えること(想像力)」を指します。
英語の能力と言われると、画一化された資格試験を指し、テクニック重視の方法論が氾濫する中で、英語教育の実践と研究の両面において、「考えること」の重要性を説くというのが主旨でした。
教育実践においては、多くの教員が、近年盛んに行われているセミナーなどで、テクニックを仕入 れてきては、それを自らの教室環境で無批判に実践します。失敗しても、テクニックのせい、あるいは学生・生徒のせい、にしてしまう様子が散見されると指摘 されました。こうした教員は、「考えること」により、自身の実践を振り返り、問題発見・設定をし、それらの解決を図り、さらにその結果を次の実践へとつな げていく、という「行為内省察」(reflection-in-action)を行うことが必要である、と柳瀬先生は述べられました。英語教育の達人と呼 ばれる先生方は、こうした「考えること」を絶え間なく続けているからこその達人であり、テクニックを持っているからの達人ではないということも付け加えら れました。
一方、研究者はどうなのかというと、「理論を応用する」という図式に囚われ、単一あるいは少数 の理論にしがみつき、「他の立場もありうる」、「現実を全て捉えているとは限らない」とは認めたがらない傾向にあると指摘されました。科学的な理論はあく まで一時的に、一定の条件でのみ妥当であることが多い、ということを忘れてしまい、現実を直視して仮説を立てて現場で検証することをしない、と指摘されま した。
柳瀬先生は、こうした実践と研究の両面での「考えること」の欠如を、アレントの cognition(認知すること/調べること)とthinking(考えること)の分類からまとめました。目に見える答(しかも単一、あるいはごく少数 の答)を確認するcognitionの領域が現在では中心となっており、さまざまな可能性を吟味するthinkingがおろそかになっているのではないか と指摘されました。教室環境に立っている以上、あるいはそこで起こっていることを研究対象とする以上、thinkingの復権が必須となるのではないか、 と述べられました。
最後に、「考えること」なしに制度・政策を受け入れ、残忍な行為を行っていたアイヒマンの例を 引き、「考えること」のない教育実践者・教育研究者になっていませんか、と問われました。さらには、「考えること」のない教育実践者・教育研究者は、「考 えること」のない学習者を生み出していませんか、と問われ講演を閉じました。
(感想)
院生の時に、Searleだったと思いますが、「哲学は、哲学的問いから科学的問いを生み出すこと(thinkingからcognitionへ)がその重 要な役割だ」、といったことを言っていたのを講演を聴きながら思い出しました。thinkingからcognitionへの動き、あるいは往復運動、が重 要だと再認識しました。ただ、心理学的研究が批判されるべきではなく、どのような研究であれ、それ以外のものを頭に置いておく余裕のない研究者が批判され るべきであるのは注意しないといけないと思いました。どうしてもcognitionとthinkingという二項対立で物を見てしまうと、やはりこれはこ れで見落とす部分も存在するであろうから…。「教室環境の、学習者の一部分を切り取った上で、他の部分も存在するし、相互作用も認めた上で、ある理論に則 り、仮説を立てて実験を行いました」というものは、認めないといけない。「そりゃそーだ」と誰もが思うかもしれないが、会場の空気からして、少し心配に なったりもした点ではありました。
話は変わりますが、「想像力の欠如」については、自分が学生と接していてとみに感じることでし た。特に、部活動の練習や授業などで、他の立場(対戦相手、ペアや状況)を頭に入れて行動ができないことが多い気がしていたからです。講演でも紹介があっ た、「オレ様化する子どもたち」、またちょうど読んでいる最中だった「『考えない』ヒト」、「ケータイを持ったサル」なんかと重なることが多くあり、興味 深く聴いていました。
(研究発表)
研究発表で特に印象に残ったものを一つ、まとめておきます。武田先生(宮城高専)による、「専門学科とのコラボレーション:英語を取り入れた創造実習」と 題した発表です。宮城高専では、平成16年度から「創造実習」という科目名で専門学科と総合科学系(明石では一般科目)の合同担当で実施されているそうで す。学生(2年次)は学科の枠を取り払った班を構成し、選択したテーマに沿って実験・データ収集を行い、まとめをパワーポイントで発表する、という流れで 半期が構成されていいました。
2回実施するプレゼンテーションの内、1回を英語による発表としているため、英語科の関わりは それに向けての指導となります。プレゼンテーションの時だけでなく、実験やデータ整理の段階で英語表現を混ぜたハンドアウトを作成するなど様々な工夫がな されていました。また、専門学科との担当範囲の設定についても、今後検討することがらが提示されました。
(感想)
学科の枠のない混合学級による、プレゼンテーション課題という点がまず目を引きました。2年次に実施することで、今後上級生で行うであろう実験の流れやそ の実施、データ収集などの基礎的な能力養成に適していると感じました。パワーポイントの使用については、1年次に保健体育で既に実施しているということ で、その点のリタラシーも確保している点は用意周到だなぁと思いました。
英語科の関わり方としても、「わープレゼンやー、英語どーしよー」というのではなく、準備段階 からサブリミナル的に(?)英語を導入している辺りは準備の周到さを感じました。初年度は英語教員の負担が個人に集中したようだが、今後もっと組織立った 取り組みになることは間違い無いと思います。専門学科との連携もうまく取れているなぁと感じました。大学まで規模が大きくならず、コラボレーションがうま く機能するのには、高専はちょうど良いと思うのだけど…。「JABEE受審に伴い学生の検定試験の得点向上を期待されたり、高学年の英語運用能力の問題点 を指摘されたりと、ともすれば専門学科VS英語という図式が見え隠れする昨今」、と予稿集に記されていたのはズシリと重かったりする…。
(フォーラム1)
亀山先生(岐阜高専)と青山先生(富山高専)による、「『COCET3300』の仕様と実践」に関しての発表が2日目に実施されました。『COCET3300』とは、「高専生のための必修英単語リスト」作成プロジェクトが進化して、Web教材として結実したもののことです。
この発表では、教材の使用方法の解説が中心に行われました。教材内では、単語の意味確認、リス ニングによる音の確認、タイプによるスペルの確認が行われます。また、学習・練習・確認の段階を丁寧に踏ませる工夫がなされていました。単語集学習にあり がちな、進むうちに最初が何だったか忘れることを防ぐために、ランダムで既習単語を混ぜ、それを間違うと以前のクリアを取り消される工夫などは、遊び心も たっぷりで、ゲーム感覚にあふれていると感じました。また、他高専の学生とポイントを競い合う形式にしている点が、さらに気持ちを盛り上げます。小テスト の作成なども簡単で、結果のデータベース化も非常に簡便そうでした。
(感想)
遊び心もたっぷりで、非常に使いやすそうだと感じました。このフォーマットで、単語リストを変えれば、一般のユーザーにも十分使えるほど汎用性の高いものではないかと思いました。
まず、来年度あたりに登録して、使ってみようかなぁと思いました。既に授業で実施している高専の報告にもあるように、毎回授業開始時(あるいは終了時)にテストをするなど、このWeb教材を取り巻く工夫をプラスすることで、大きな効果をあげそうな気がします。
単語は、工学系関連のものを含んだ3300をセレクトしており、関連情報なども学生が専門教育 で出会うことのあるようなものが多く含まれています。単語の選択においての恣意性はある程度は仕方ないと思われます(とは言え、JACET8000や ジャーナルなどのコーパスなどから選択はなされているので、全く恣意的である訳ではない)。
(フォーラム2)
三好先生(茨城高専)と武田先生(宮城高専)による、「これからの海外研修」と題して発表がありました。各高専の海外研修の取り組みが報告された。2つの取り組みの違いが明確に出ており興味深いものとなりました。
茨城高専では、国際交流センターが立ち上がり、海外の技術系高校や大学との交流協定を結ぶ働きかけを行っていました。将来的には、カリキュラムの一環として、海外研修を位置付けていました。
宮城高専も、海外の学術交流協定校との長期・短期留学が実施されてきたが、意識が「参加していない学生への波及効果」に多く置かれているように感じました。
単位認定などに関連して、事前指導や事中の観察、事後の報告などの扱いなどは、いずれの高専においても課題となると思います。また、部活動や学科の指導(ゼミなど)との兼ね合いも問題となるであろうと述べられました。
(感想)
第一印象は「やっているところはやっているんだよなぁ」、というものでした(恥ずかしながら)。専門学科教員、保護者、さらには事務、とをうまく巻き込む ことで、学校という組織として取り組んでいるんだ、ということが良く分かる発表でした(組織内の『波及効果』ですね、まさに…)。組織の経営を見直さない と、と自分自身の環境を見直して考えた次第です。
あと、高専同士の連携で海外研修というのは考えられないかなぁ、とふと思いました。各学校の特色を打ち出していこうとしている中、こうした連携は難しいのでしょうか?それとも、仕事のたらいまわしと受け止められるのでしょうか?(うーん、後者の可能性が高いか…)
3年目にして初めて参加した学会であったが、得るものが幾つかあり、興味深く聴くことができた と思います。また、自分の実践だけに結び付けて聴くのではなく、英語科組織や学校を少しだけ俯瞰的に捉えながら聴くことができたのではないかと思います。 自分の組織にフィードバックができるかどうかは分かりませんが…、と自虐的なオチがついたところで終わることにします。(31.08.2005)