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そうありたいな…というブログ名にしてみた

2004.08.01(LET関西支部中学高校授業研究部会 第9回「中学・高校教員のための英語教育セミナー」の備忘録)

2004年7月31日、8月1日に参加したLET関西支部中学高校授業研究部会 第9回「中学・高校教員のための英語教育セミナー」(於: 京都教育大学附属高等学校メディアセンター)の備忘録を記すことにします。


2日間に渡って、筑波大学附属駒場中・高等学校(以下、筑駒)の久保野雅史先生によるセミナーを実施する、ということで、これは行ってみようと思った。久保野先生の実践は『英語教育』や"6 Way Street"などのDVDで見たり読んだりしていて、一番しっくりくる実践者だなぁ(個人的に)と思っていました。
「久保野先生を骨までしゃぶる」(@鈴木寿一先生)との言葉通り、2日間、久保野先生がこれまでにやってこられた中 学・高校での実践を、点ではなく実線としてみることができたような気がしました(上手い、と思ったけど、だめ?)。ともかく、以下にどのようなセミナーが 実施されたのか、それに関して感じたことを記していきたいと思います。
①「音読・暗唱、口頭練習で学び方を身につける!」
既に色々なところで述べられていることですが、先生の授業の捉え方は「トレーニング・練習」というものでした。「正しい練習方法を学ぶのが授業である。ただし量的に十分ではないので、その量を自分で補う必要がある。」と言われていました。
中学校段階では学習習慣を身につけさせるため、鉛筆のもち方から(これをきちんと確認すると姿勢がよくなる)、「復習 の練習」を授業の中で時間を取って行う(復習の手順を追って実際に授業中に確認する)という。こうした習慣の形成が6年後にボディブローのように効いてく るのだろうと思いました。学習習慣の徹底は中学のみならず、高校1年段階でも取り入れることができるのではないかと感じました。
教科書の使い方としては、内容の理解ができた文章の音読練習を十分にし、その後キーワードに基づいて内容を再生するよ う練習する。教科書本文に関してこうした活動ができることは、つまりスピーチ原稿をメモをもとに再生するのと同じことであると述べられ、音読・暗唱練習の 意義を述べられました。
発音指導については、「まずリズムを英語らしくすること、それから音素の練習を丁寧に」と述べていました。また、音素の練習の時には、言い換えや近似音を出すための日本語の使用などを積極的に勧めていました。
順番が逆になりましたが、最初に久保野先生の勤務校の説明がされました。その際、生徒・保護者に「出口を示す」と述べ られました。「一学期が終わったら、●●ができていますよ」といった形で具体的に何ができるようになるのかを示すのだそうです。その際には、実例として先 輩のビデオや音声を見せる、聞かせるということをしています。生徒・保護者と交わす約束(あるいは契約)をきちんと果たすことで、後進の生徒がどんどん頑 張れる、そして英語科は発言力を増す(笑)と述べられました。
②「スピーキングテストを導入して定期テストを再検討する」
筑駒では、定期テストと同時期にスピーキングテストも実施しているそうです。スピーキングテストが必要な理由は、まずは英語は実技教科であるという意識か ら、測れる能力は直接測る方がよい、という点があります。それから、授業での音読や暗唱への取り組みがより熱心になるという波及効果が見込める、という点 がかなり大きいと述べていました。
実施内容は、暗唱課題をビデオで取ったり、一人一分の面接を行う、などでした。実際のビデオなどはDVDにも収録され ているものでしたが、何度見ても本当に中学生なのかと驚くほどの音読や面接でした。日ごろのトレーニングの賜物とはこのことです。この時にも、習慣づけを 徹底しており、メモやキーワードを見ているときは発話せず、カメラ目線で発話する、という行動がきちんとできるように何度も練習させているようです。
また、定期テスト(ペーパー)についても、到達度を確認する問題と実力問題とのバランス、また測ろうとする能力の明示などに努めているとのことでした。
ここでは、ある高校の入試問題を問題だけ見せて生徒に解かせ、それだけで答えが導ける試験問題は正しく読みの力を測っていないことを示した、というエピソードも紹介してくれました(それを受験の一つのテクニックとしても使えることにもふれつつも)。
久保野先生が作った実際の定期試験を見ると、長文などは全体を読まないと解けない問題を作っているし、文法事項は既習 事項が何度も出てきて練習ができるような問題になっていました。また、個人成績票を配布し、それを各個人が振り返りながら記入していくことで自分の弱点に 気付き、復習を促すという仕掛けがしてあり、細かいところにまで手が届いているなぁと驚きました。
③「中高を橋渡しする: 復習方法、リーディング、辞書ほか」
中学校と高校とでは教科書の分量や新出語句の数などで大きな違いがあって、それに驚く生徒が多くいます(私の勤務校の学生も同様で、それで嫌気をさす者が多かったりします…)。その橋渡しをどうするかをこのセッションでは説明して頂きました。
一学期の前半では非常に丁寧な橋渡しを行っていました。まずは分量に慣れさせるために、他社の中学校の教科書を使い 100w/mで読む訓練を行い、その後高校教科書へ入るといいます。前倒しどころか先送りですが、丁寧に指導するとやはりボディブローのように後に効いて くるようです。辞書の指導もプリントを用いるなどして丁寧に行っています。電子辞書よりも紙辞書を引け、読める状態になる必要があると述べていました。
読解の際には、文字→単語の意味・発音→句の意味→文を句に区切る→句同士の意味関係→文のつながり→まとまった文 章、と段階を経る工夫がなされていました。音読のプリントでは、句の単位で文章をセンタリングしたものや分かち書きされたものを用意し、一気に読めるよう な工夫がなされ、そこから除々に通常の書き方に戻していくというものがありました。
文のつながりを意識させるために、人物や出来事の歴史が書かれたものを英語で文章化する作業を行わせ、誰が中心に語られ、どのようにつなげるべきなのかという点を考えながら文章化させる、というプリントが紹介されました。
「どうしても生徒が心配するのが語彙である」と久保野先生が言うと、会場の多くの教員が頷きました。そこで紹介されたのが、授業開始時の小テストで、それに関連しての単語導入方法でした。Z会の『速読速聴・英単語』を用いて、「TOEICトレーニング」のような手順*で 進めていくものでした。久保野先生の生徒のレベルの高さには驚かされますが、手法は十分に私の勤務校でも用いることができるものですし、「TOEICト レーニング」に関しては既に私も参考にした方法を取っています。最近その手法の簡略化、システム化を考えていましたので、これは重要なヒントになりまし た。
*手順は以下の通り
1.テキストを閉じて聞く(2回)
 1回目…内容把握を意識して
 2回目…聞き取れなかった箇所(形式)を意識して
2.本文を黙読する
3.単語の意味・発音を確認する
4.本文を音読する
5.CD(slow speed)に合わせて音読する
6.本文を目で追いながらCD(fast speed)を聞く
7.テキストを閉じてCDを聞く


(2日目)
④「教科書を発展させてスピーキングへ!」
2日目最初のセッションは、まずは長期計画の重要性からでした。6年間を見通して、そこから各学年、各学期、各課、そして一回の授業へ、という逆算方式のデザイン(backward design)を主張されていました。各学期が終われば何ができるようになるか、と行動目標を立てることも重要であるとされていました。
行動目標の達成も兼ね、年間で3回程度は大きな言語活動を取り入れると言います。部活で言うところの公式戦がやってくるというイメージです。
このセッションでは、高1のクイズショーを紹介して下さいました。教科書にあったクイズのレッスンを応用し、生徒が段 階付けられたヒントを出すクイズを作らせるという活動です。評価の対象となるのは、きちんとヒントが伝えられるか、という点でした。クイズショーの流れに ついては、映画「クイズ・ショウ」が用いられていました。台本を作成し、ネイティブチェックを受け学期末の実施へと進めていきます。それまでに教科書や 『チャップリンの独裁者』の音読や暗唱を地道に続けている点を忘れてはいけないと思いました。
⑤「予習の答え合わせにしない授業を! part1」
「予習の答え合わせにしない授業を! part2」

午前から昼を挟んで午後の一つ目のセッションでは、授業の組み立てに関しての話でした。これまでの1時間は、「復習→導入→説明→練習→発展→まとめ」と いう流れを数時間重ねることで教科書の1課を終わらせていました。それを、同じ配当時間にしながらも、読む時には一気に読ませる組み立てにすることを主張 されていました。こうすることで、ある程度の量を一気に読め、細切れに読むことで読む楽しみが損なわれることがないということでした。この際、教科書の予 習はいらないのも肝だと思った。
以下は、1課を読む際の6時間の活動である。
第1時: 導入(関連トピックの映像、文章提示)
第2時: 概要把握(トピックセンテンス抜き出しを理解から類推へ)
第3時: 詳細理解(本文を家庭で読ませて内容をしっかり解説)
第4時: 運用練習(単語や文法事項を口頭練習)
第5時: まとめ(Summaryの音読・暗唱)
第6時: 発展(補足文章の提示、理解)
第1時では、レッスンに関連する映像や文章を見せたり読ませる活動を行って、イントロを十分にさせています。第2時で は、教科書本文のトピックセンテンスをプリントにまとめ、それをざっと読ませて概要を理解させます。その際には、字数を100w/mで割った時間を与える とのことです(高1で)。
第3時までに家庭学習で本文をちきんと読み、単語を調べ内容を確認しておきます。その上で第3時に、内容の確認と文法 や語法の説明を行います。本文の重要事項となる文は音読練習も行います(知識整理モードとしていました)。第4時には、文法事項の口頭練習をしていまし た。最後の2時間では、まず課末のまとめの英文をしっかり音読・暗唱させていました。ここでは、何度もいろんなところで見たキーワードを基にした音読でし た。最後に発展として関連する文章を読ませたり、見せたりといった活動でした。
第1時や第3時、第6時の詳細な内容に触れられなかったので、そこでどういったタスクを行っているのか、という疑問は 残ったが、生徒が毎時確実に何かをしているという実感を得ているのであろうと思われる組み立てでした(久保野先生はこれをコース料理の一品に喩えていまし た)。また、教材研究のきめ細かさや日ごろのアンテナな張り具合など、非常に勉強になった。私の勤務校は90分単位なので、2つ分ずつの組み合わせなんか できないかなぁと考えました。
他にも、文法事項の導入では、映画を使うという事例も紹介されました。実際に映像を見たり、ディクテーションを体験しながらで、上にも書いた教材研究の深さ、きめ細かさが一段と引き立った気がします。
⑥「入試対策は出題者の視点で!」
筑駒では、入試対策は3年生の2学期から集中的にするそうです(「最小限の時間で最大限の効果を上げる」とのことでした)。「入試は君たちの能力の一部を 測っている。氷山の一角だ。試験対策をし過ぎる余り、海上に浮き出た部分だけを大きくしても意味がない。氷山そのものを大きくしないとだめ。」と久保野先 生は生徒に伝えるそうです。入試への対策は主に形式への慣れができれば、普段からの学習が十分であればそれで十分であるとも述べていました。
その上で、久保野先生自身が入試問題を詳細に分析し、求められる能力、解答を割り出し、それを生徒に伝える、という感 じでした。その際には、生徒自身も問題作成者側に立って考えることも取り入れている。学校で実施している模試にも相当の労力が注がれており、また解答を返 す際にも解説や分析も一緒に返していました。どこにそれだけの時間があるのか、と驚くほどの精緻さ、分量でした。
(全体を振り返って)
これまでの久保野先生の実践をたどるように見ていった2日間でした。長期的な目標を据えて、それに向かって着実に置かれたハードル(またハードルがそれぞ れ飛び越えようという意欲を掻き立てる微妙な高さやデザインだったりする)、一つ一つのハードルを越えるための徹底した訓練、それら全てを支える幅広く深 い教材研究とアンテナの感度の良さ、と感心しきりでした。
発想は部活動、というところで、私も含めて多くの方が同意しているのではないかと思います。大会に向けて、地道な練習 をする。部活動の中での技術指導では、各個人を見て個人に合うアドバイスを送る(その際、「腰が高ーい」とかだけ言うタイプではなく、知らないうちにそれ が出来ていた、というアドバイスが必要というのも納得)。
全く同じことをする、という訳ではないでしょうが、久保野先生の実践は自分が見ていて納得することが多く、自分に足りないところをたくさん気付かせてくれたような気がしています。取り入れることができるものをどんどんと入れていってみたいなぁと思わされた2日間でした。
(05.08.2004)