comfortably intelligible, comfortably intelligent

そうありたいな…というブログ名にしてみた

2002.09.02(ロンドン大学英語音声学夏期講座参加の備忘録)

一応学生生活最後の夏(?)になるということで、思い切ってロンドン大学の音声学夏期講座に参加することにした。これまで音声がらみの研究をしてきたわけ であるが、音声に関係する授業は学部時代には1単位音声学を履修し、NZに行った時に学部レベルの言語学、音声学音韻論を履修した程度で後は独学であっ た。やっぱり講義なんかをきっちり聴いた方がいいかなぁというわけでの参加である。 
期間は8月5日から16日の2週間で52時間であった。タイムテーブルは次の通りである。
9:00~9:45 講義(分節音)
9:55~10:45 プラクティカルグループ(主に分節音)
11:15~12:00 講義(超分節音)
12:10~13:00 プラクティカルグループ(主に超分節音)
14:00~14:45 イヤートレイニング(週2回実施)
15:00~15:45 講義(electives)
1日に最低でも2回の講義が入るためか、分節音と超分節音との両方をバランスよく盛り込んでいる。こうした点は分節音 から入り、超分節へと移る伝統的な音声学教科書の構成とは異なる点であり、良い点であると思われる。単語帳で単語を覚える時と一緒で、どうしても最初にし た方が印象に残って最初しか覚えていないことが多々あるわけで。
<講義について>
講義内容は幅広いレベルの参加者に合うように比較的簡単なものに設定されていたように思う。もちろん、2週間という時 間的制約もあったかと思う。先にも述べたが、分節音と超分節音の両方を必ず一日の内に行うというのはバランスの取れたよい構成であったと思われる。分節音 は母音、母音持続時間長、子音、子音連結、などが含まれ、超分節音はストレス、アクセント、イントネーションなどが取り扱われていた。
午後の講義では、各講義陣の専門を生かした独自のトピックを扱った講義がなされた。コックニーや最近広がりを見せているエスチュアリー英語に関する講義や、音節構造に関するもの、日英対照分析などが行われた。
中でも印象的だったのは、国際語としての英語(English as an International Language; 以下EIL)を主張するDr. Jennifer Jenkinsによる講義であった。彼女の説明からすると、非英語母語話者同士が理解できうる英語発音であればよく、そのために最低限必要な分節音、超分 節音をリストしていた。そこで、講義後私が「つまり新しい言語体系を打ち出すということなのか」と問うたところ、「そうだ」との答えであった。私は非英語 母語話者同士のやりとりの分析から特徴を記述するまでにとどまっているだろうと考えていたため、この返事にはいたく驚いたと同時に何かひっかかりを覚え た。更に彼女は、EIL用のテキストができればいいなぁとも述べていたため、体系作りを目指していることがさらにはっきりした。現時点においても、英語、 米語などを(ある程度)目指して英語を学習してきた人々が結果的に様々な変種を生み出している。そのなかにEILを置くことで、それを目指し結果的に新た な変種を生むことになりはしないだろうか、というのが私のひっかかりである。「非英語母語話者同士」というコミュニケーションがあることを顕在化させた功 績は大きいと思うし(実際私の論文でも彼女を引いてるわけで…)、その際の音声特徴に関して異論はないのであるが、その情報の使い道には多少違和感を覚え ざるを得ない。もう少し彼女の著書を吟味する必要がありそうである。
各講義の後にはプラクティカルグループという10人前後のグループに分かれて講義内容を練習する時間が設けられている。
<プラクティカル・分節音>
担当の教官は、Jack Windsor-Lewis先生であった。厳しく、熱い人であった。最初に発音記号表が手渡され、無意味語を発音記号で書き取ったり、英文ダイアログを発 音記号で書き取る作業がまずウォームアップとして行われる。無意味語は英語の単語に用いられ得る規則の範囲内で発せられるが、とにかく難しかった覚えがあ る。英文ダイアログの書き取りにしても、先生が読んだ通りに書き取る必要があるため、辞書のエントリーのまま発音記号を書いても、「私の罠にはまったね」 と言われるのがオチであった。
その後は、配布された対話文をグループ内で読む作業が行われた。ここで、非常に事細かに発音の指導が行われた。もちろ ん用いられる規範はイギリス英語(先生の英語)であった。私は語末のth音や、連結などに弱点があることが何度も指摘された。また、グループのメンバーの 音声を注意深く聞き、何がおかしいのかを指摘できるようにとも指示されていたので、皆の英語を慎重に聞くことができたと思われる。
<プラクティカル・超分節音>
担当の教官は、Dr.Geoff Lindsey先生であった。プラクティカルというよりは講義からの質問、コメントをグループのメンバーで出し合うという雰囲気のクラスとなった。もとも とイントネーション研究で博士論文を書いていたこともあり、先生が「イントネーションについて知れば知るほど、重要性は低くなっていく」という言葉には重 みがあり、私を落ち込ませるには十分であった。今年度の夏期講座の方針として「核をきちんと把握すること、そしてそれを文強勢として発音すること」が設定 されていたため、ということも理由の一つではあるが。
若干ではあるが、対話文を読む訓練を行った。私はピッチレンジが狭いことを指摘された(「クリントイーストウッドのよ うなしゃべりはやめなさい」と言われる。うーん、うまいこと言う。でも取り方によってはこれでええやん、とか思われるかも…。)。一応自分の興味がイント ネーションだったりするので、核や卓立の位置など、ピッチ曲線に大きな間違いはなかったらしいが、どうも幅が狭いと言われた。これは実際10年前に自分が エディンバラへ行った時に、先生から指摘を受けた点と同じであった。うーん、進歩がない。
<イヤートレイニング>
担当の教官は、Dr.Jane Setter先生であった。子音、母音の聞き分け、無意味語などの書き取り、を行った。作業自体はミニマルペア中心で単調に思えるかも知れないが、受講生 の弱点にポイントを絞った効果的な訓練であったと思う。それだけに焦点を絞って学習する機会はこれまでそうはなかった訳でもあるので。
自分の発音が向上したかどうかは残念ながら余り自覚はない(誰か私の英語を聞いた人で感想がある人はお願いします)。 ただ、どのような訓練を行うか、どのような活動を行ったらよいのか、ということは学べたように思う。また、講義を聴いていて、良く準備のされている講義ば かりだったので、今後の自分の授業運営においても大いに参考になったと思われる。どんなんかな、と気になった方は「リンク」の中にありますので御覧下さ い。(12.9.2002)